6月 25 2011

これからも斜に構えて生きていきます。

Piazza del Duomo in Pisa, Italyフィレンツェのアルノ川を下っていくと、かつて海洋王国として栄えたピサの町に辿り着きます。現在のピサの町にその面影は全くなく、この傾いている「斜塔」でその名が広く世界に知られいます。隣に立つ大聖堂の独立鐘楼として造られたこの建造物ですが、8層建ての塔がほんとにななめ。知ってはいても実物を見れば写真のそれより傾きが更に大きく感じられ、なんだか不安になってしまうほどの特異な姿。まさに百聞は一見に如かずです。

1173年に着工し、3層目にとりかかる時には既に傾きがはじまっていたというピサの斜塔。近隣国家との戦争により建設途中で2度も工事が中断するのですが、再開ごとに、低く傾いている方を少し高く積み上げるというバランス修正を施しながら各階層を築いていき、7つの鐘が設置されている最上層だけが地面に対し垂直に造られています。なので、下層部よりも上層部のほうが傾きの角度がいくぶん小さくなっており、遠くから眺めると、斜めというより若干湾曲、バナナのように反り返った形に見える斜塔です。傾斜の原因はこの地帯の軟弱地盤。不均等に沈下した結果、南側に傾いた姿を見せています。

傾きにより当初の予定(100m)より約半分の高さで完成品となった斜塔ですが、起工から完成まで、中断時間も含めて約200年という途方もない年月が投じられています。半分の高さといえども、初期段階で傾きが始まっていたのに諦めずに建てちゃったところがとてもすごい。「ヤバイ」って思ったでしょうが、根本的な不均等の是正ができないまま、いうなれば彌縫策で構築し続けちゃったところがこれまたすごい。不屈の精神というかなんというか、良く言えば前向きであり難行苦行の末建てられた労作と言えますが、悪く言えば無茶苦茶であり、明らかにひどい欠陥建築です。

しかしその「欠陥」こそがこの斜塔の個性であり、不思議な魅力となってたくさんの人々を引きつけているのは事実です。傾いているからこそより価値のある建造物。ピサの斜塔は「欠陥品」のままでいいのです。

「形あるものはいつか壊れる」という言葉がありますが、このピサの斜塔に関して言えば、その欠陥故に摂理通りの運命が間近に待っていたことでしょう。しかしその摂理と真っ向から立ち向かった人達がいる。年々傾きが深刻化し倒壊が危惧された斜塔は、1990年から研究者や技術者たちの手によって修復と安定化の作業が施され、10年後の2001年には傾きを18世紀頃の状態まで戻したそうです。更に7年後の2008年には、毎年1ミリの割合で沈んでいた斜塔の動きを完全に止めることにも成功し、以後現在に至るまで同じ傾斜角を維持しているそうです。斜塔がもつ800年の歴史に間違いなく刻まれるであろうこの快挙。どれだけの試行錯誤を重ね、複雑かつ繊細な技術と細心の工事であったのか、その並々ならぬ苦労がこの斜塔の「個性」を守り、命を救ったのです。先人が試行錯誤の上でカタチとした斜塔は、現代に引き継がれ試行錯誤の上で支え続けられている。なんていい話!

私はこのピサの斜塔に二度行きました。一度目は完全に立入禁止となっていた工事前半の頃。ヘルメットを被った技術者たちが斜塔を取り囲んでいる光景を今でも覚えています。二度目は昨年です。写真を拡大すると分かりますが、塔の上層部に足場が設置されています。訪れた二度とも修復中ではあったんですが、文化財の価値や守ることの大切さ、難しさを教えられたような光景でしたし、この斜塔の延命に繋がった貴重な歴史の一端を見たような気がして光栄な思いさえ感じます。

先日、「20年ぶりに足場撤去」というこの斜塔の修復完了のニュースを読みました。恐らく昨年見た外観に組まれていたそれが最後の足場だったのでしょう。汚れや落書きも落としてもらってピカピカになったピサの斜塔。生まれ変わったその美しい姿と持ち前の「個性」でこれからもたくさんの人々を引きつけ、見る者に強い印象を残すことでしょう。「この先300年は倒れない」そうですから。

以上、昨年行ったボローニャやピサにも話を広げちゃいましたが、ダラダラと綴ってきた今回のイタリア紀行はこれでおしまいです。

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これからも斜に構えて生きていきます。 への2件のフィードバック

  1. k.s のコメント:

    「ピザの斜塔」有名で名前だけは記憶していましたが、実物にお目に掛かった事は無く貴重な
    お写真を見せて頂きました。

    すごい技術と言うのでしょうかね?世界遺産に登録済み???

    イタリヤ旅行しっかり楽しまれた事でしょうが、詳しい説明付きで色々こちらも楽しませて頂きました。ありがとうございました。

    どうもお疲れ様でした。

    • kyblog のコメント:

      k.s様

      正確にはこの鐘楼である斜塔は単一では世界遺産ではありません。この斜塔の近くに大聖堂、洗礼堂、墓所回廊が点在しており、それら全てが建つ「ドゥオモ広場」と称される広場ががユネスコの世界遺産に指定されています。別名「奇跡の広場」とも呼ばれている広場で、おっしゃる通り斜塔が有名ですが、その他の建造物も実に傑作で、緑の芝生が生える美しい広場なんですよ。そういえば、つい先日行われたユネスコの審査で小笠原諸島と、岩手県平泉の文化遺産がユネスコの「世界遺産」に選ばれましたね。岩手県は被災地でもあります。今の日本には嬉しいニュースですね。

      最後まで旅行記をお読みくださり、写真もご覧になってくださり、ありがとうございました。k.sさんのイタリア旅行にまつわる思い出話がちらほら聞けたりして、こちらも楽しくコメントを読ませていただきました。

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